今回の論文は、皆様も頭を抱えている問題である脾臓血管肉腫による腹腔内出血の救命率向上に寄与するものです。多くの動物病院で血液不足が叫ばれるなか、救急で運ばれてくる脾臓腫瘍破裂による腹腔内出血の治療は、判断に悩むケースの一つかと思います。実際、血液が無いと周術期のリスクが高い為、他院を紹介する例も少なくありません。しかしながら、本研究で紹介されているセルサルベージ(自己血回収)システムならびに白血球除去フィルターを使うことで、腫瘍の播種リスクを抑えながら、比較的安全に回収血輸血を実施することが出来るかもしれません。(担当:荻野、瀬川、青木)
※2020年12月更新※
こちらにも血腹と回収血輸血に関する記事をアップロードしました。あわせてご確認下さい!
セルサルベージシステムと白血球除去フィルターを用いた血管肉腫細胞の除去
著者:Ciepluch B, Wilson-Robles H, Levine G, Smith R, Wright GA, Miller T, O'Brien MT, Thieman Mankin KM.
掲載誌:Vet Surg. 2018 Feb;47(2):293-301. PMID:29247544
目的:術中セルサルベージ(IOCS)システムと白血球除去フィルター(LRF)が犬の血液から血管肉腫(HSA)細胞を除去できるか評価する。
研究デザイン:術中の出血や脾臓HSA破裂による腹腔内出血をシミュレーションする為、培養したHSA細胞に犬の血液を添加し、HSA細胞と血液の混合液をIOCSシステムで処理した後、LRFで処理を行った。
サンプル数:3頭の健常犬の血液を培養HSA細胞と混合した。
方法:1ml中に50個のHSA細胞を含む濃度でHSA細胞と血液の混合液を調整し、定量的RT-PCR、マルチパラメーターフローサイトメトリー、細胞診によりそれらのHSA細胞を検出可能か確認した。また、混合液処理過程の4工程でHSA細胞を検出可能か評価した。
結果:コントロールとIOCS処理後の検体では、HSA細胞がいずれの方法でも検出されたが、IOCS処理後にLRF処理を併用した検体ではHSA細胞が検出されなかった。
結論:犬の血液でIOCS処理後にLRF処理を実施することにより、培養HSA細胞を除去することが可能であった。したがって、IOCS処理にLRF処理を加えることにより、HSA罹患犬に回収血輸血を安全に実施することができるかもしれない。
臨床的意義:IOCS処理とLRF処理を組み合わせることで、HSAによる腹腔内出血の際に輸血に代わって回収血を使用出来る可能性が示唆された。
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