今回の論文は猫において2種類の異なる交差適合試験用検査キットの有用性を調査した論文です。以前、紹介した犬の研究(輸血による同種免疫感作)の猫版と言えるかもしれません。特に注目したいポイントは、検査キットの有用性もさることながら、A型の猫の血漿には抗B抗体が無い、または弱いのではないかという点です。
人間と同様に猫は生まれつき、他の血液型に対する抗体(規則性抗体)を持っていると私達も教育されてきましたが、本研究が今後も支持されるようであれば、猫の血液型研究は新たな局面を迎えるかもしれません。当然の様に受け入れられている血液型に関しても、まだまだ未知の部分が沢山あるということを改めて実感した論文です。是非ご覧ください。(担当:中村、瀬川、近江)
輸血歴の無い猫におけるゲルカラム法を用いた規則性抗体の検出
著者:Isabelle Goy-Thollot , Alexandra Nectoux , Maryline Guidetti , Benjamin Chaprier , Sarah Bourgeois , Catherine Boisvineau , Anthony Barthélemy , Céline Pouzot-Nevoret , Urs Giger
掲載誌:J Vet Intern Med. 2019 Mar;33(2):588-595. PMID:30557453
背景:猫の輸血前検査としてABシステムによる血液型の検査と交差適合試験は重要であり、実施することが推奨されている。
目的:2種類の交差適合試験方法を評価すること。
動物:輸血歴の無い49頭の健康な猫を対象とした。
方法:前向き研究を実施した。猫のABシステムに基づく血液型分類には免疫クロマトグラフィ試験紙およびフローサイトメトリーを用いた。また、交差適合試験にはゲルカラム法と、クームス血清を用いて感度を増強した間接抗グロブリン法を用いた。
結果:母集団はA型34頭、B型13頭、およびAB型が2頭であり、免疫クロマトグラフィ試験紙およびフローサイトメトリーによる結果が完全一致した(r=1、P<0.005)。A型の猫には抗B抗体が弱いか検出されず、B型の猫13頭のうち12頭には強力な抗A抗体が検出された。446検体で交差適合試験を実施したところ、329検体(74%)は適合、102検体(23%)がA-B不一致による不適合であった。加えて、15検体(3%)は、ゲルカラム法では適合であったが、間接抗グロブリン法のみ不適合を示した。そのうち、ABシステム以外での不適合反応を14検体認めた。
結論および臨床的重要性:免疫クロマトグラフィ試験紙を使用した血液型検査は、フローサイトメトリーと同等な正確さを示した。ゲルカラム法と間接抗グロブリン法の結果は概ね一致していたが、ABシステム以外での凝集陽性反応は間接抗グロブリン法だけが検出していた。このような血液型検査キットと感度の良い交差適合試験キットが利用可能であることから、各施設で輸血前検査として実施することを推奨する。しかしながら、本研究はin vitroの研究である為、今回認められたような交差適合試験の不適合性とそれがもたらす臨床的意義に関してはさらなる研究が必要である。
※一部、本文より抜粋して加筆、修正させて頂きました。
図4. A型猫の血漿(CAT2)とA型猫の赤血球(CAT11, 12, 13, 15, 17, 18, 19, 22)で交差適合試験を行った結果を示す。間接抗グロブリン法(AGC)では検出された凝集陽性反応が、ゲルカラム法(GC)では検出されていないことに注目したい。
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