犬の血液製剤を保存しようとする場合、各施設ごとにその有効期限を設定しなくてはいけません。CPDA-1の血液バッグの表面には35日、MAP液の添付文書には42日が有効期限と書かれていますが、それらはあくまで人の赤血球に対する有効期限を示したものである為、そのまま外挿して良いものかどうかは注意が必要です。
今回紹介する論文は約30年前と非常に古い論文ですが、CPDA-1は今でも用いられている代表的な抗凝固-保存剤です。筆者達は、CPDA-1処理した犬の赤血球濃厚液を「20日」までは少なくとも保存可能としています。残念ながら犬の赤血球濃厚液をMAP液で保存した場合の有効性を評価した論文は今のところみられませんが、今回の論文を踏まえて考えると上述の42日よりも短い可能性が高そうに思います。血液の円滑な有効利用を推進し、適切な輸血療法を行う上で、今後の研究の動向に期待したいと思います。
(担当: 瀬川、久末)
Evaluation of Citrate‐Phosphate‐ Dextrose‐Adenine as a Storage Medium for Packed Canine Erythrocytes
犬の赤血球濃厚液をCPDA-1で保存した場合の有効性
著者: Price GS, Armstrong PJ, McLeod DA, Babineau CA, Metcalf MR, Sellett LC.
掲載誌: J Vet Intern Med. 1988 Jul-Sep;2(3):126-32. PMID: 3225806
目的: 抗凝固-保存剤であるCPDA-1で処理した犬の赤血球濃厚液を保存し、1、10、20、30、40日後にその品質を評価すること。
結果: 上清中のカリウム濃度とナトリウム濃度、MCV、赤血球の脆弱性が保存期間中に増加した(P<0.05)。pH、上清中グルコース濃度、赤血球内の2,3-DPG濃度とATP濃度は減少した(P<0.05)。特に赤血球内の2,3-DPG濃度は保存開始から24時間で54%減少していた(P<0.001)。赤血球濃厚液の輸血後生体内生存率(post transfusion viability: PTV)は保存1日目に90%であったが、40日目には46%まで低下していた(P<0.05)。保存10、20日目の赤血球濃厚液のPTVは米国食品医薬品局(FDA)の基準を満たしていた。
考察: 赤血球濃厚液の保存中に著しく生化学、血液学的な変化が認められたが、20日間保存したものは許容範囲内の品質の変化であった。2,3-DPG濃度の急激な減少は、保存した赤血球濃厚液の酸素運搬能の低下を示す結果であった。保存中に上清中カリウム濃度の上昇がみられたが、赤血球内にカリウムを豊富に持つ特殊な個体という訳ではなく、恐らくATPの不足によるナトリウム/カリウム調節機構の障害が影響していると考えられた。
※一部、本文より抜粋して加筆、修正させて頂きました。
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