異種間輸血は通常の場面において選択肢となり得るものではありませんが、犬から猫への異種間輸血は、数十年前から現在に至るまで報告が散見されています。それらの報告における異種間輸血の適応とは、たとえば猫の血液に対して輸血反応を生じたことがある症例、緊急時、血液型が適合した血液製剤を用意できない場合、金銭的に余裕がない場合などが挙げられているようです。
今回紹介する論文は、犬から猫への異種間輸血における、おそらく過去最大規模の症例研究です。通常の場面において決して推奨されるべきものではないことを強調致しますが、知識の一つとして一読されてみてはいかがでしょうか。
(担当: 瀬川、丸山)
犬から猫への異種間輸血: 49例の調査結果
著者: A Le Gal, E K Thomas, K R Humm.
掲載誌: J Small Anim Pract. 2020 Mar;61(3):156-162. PMID: 31867733. 目的: 異種間輸血の適応やレシピエントになった猫の予後を示すこと、また、そのご家族が異種間輸血を認識できていたか調査することを目的とした。
材料および方法: 2016年1月から2018年7月までの間、2施設において異種間輸血を実施された猫を研究対象とした。異種間輸血の適応理由、貧血の原因、血液型、PCV、輸血量、輸血反応、輸血12時間後のPCV、生存退院かどうかについて調査を行った。なお、生存した猫のご家族には、異種間輸血を行ったことが認識できていたかについても調査を行った。
結果: 49頭の猫に対して、犬から猫への異種間輸血を実施した。貧血の主要因は、手術による出血が17頭、免疫介在性溶血性貧血および腫瘍が14頭ずつであった。輸血前のPCV中央値が10%、輸血12時間後のPCV中央値は25%であった。6頭(12%)の猫が発熱性非溶血性輸血反応を示し、10頭(20%)の猫が異種間輸血から24時間以内に死亡あるいは安楽死となった。また、15頭は輸血後1.9日(中央値)が経過した時点で黄疸、19頭は中央値2日経過した時点で血清の溶血を認めるなど、24時間以上生存した39頭の猫のうち、25頭(64%)に遅延性溶血性輸血反応を認めた。退院後1週間生存した18頭の猫について、15頭(83%)は異種間輸血後に173日(中央値)間生存していた。なお、連絡が取れた全てのご家族が異種間輸血を受けたことを認識できていた。
臨床的意義: 猫に対して犬の赤血球濃厚液を異種間輸血することは可能であるが、輸血後1-6日以内に溶血反応が生じることを想定するべきである。
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