top of page

ドナー猫とヘモプラズマ感染症

以前、イタリアにおけるドナー犬の節足動物媒介性病原体の保有率に関する記事を掲載しましたが、今回はポルトガル、スペイン、ベルギーの動物血液バンクのドナー猫におけるヘモプラズマ感染症の調査に関する報告です。

その動物血液バンクでは、献血された検体の全てがFIV抗体、FeLV抗原、FeLVプロウィルス遺伝子、ヘモプラズマ遺伝子に関して検査され、陽性となった血液は廃棄、もちろんその猫は以降のドナー候補からも除外されることとなるそうです。

血液バンクに血液が集約されているからこそできる厳しい検査体制であり、日本のように各施設で血液製剤を作製している場合、毎回の感染症スクリーニング検査は困難なように思われます。しかしながら、本研究のヘモプラズマ陽性率をみるとそのリスクは決して無視できないものであり、各施設ごとに対策や方針を考えておく必要があるのは違いありません。本文もフリーアクセスで読めますのでぜひご覧ください。

(担当: 瀬川)


ドナー猫におけるヘモプラズマ有病率とその傾向


著者: Elodie Roels, Chiara Debie, Sophie Giraud, Rui Ferreira, Kris Gommeren.


掲載誌: J Vet Intern Med. 2024 Jul-Aug;38(4):2151-2157. PMID: 38803041


背景と目的: ヘモプラズマは赤血球表面に感染する細菌であり、輸血によって伝播する危険性をはらんでいる。そこで、献血ドナー猫のヘモプラズマ有病率を定量的PCRにより解析し、その傾向を評価することを本研究の目的とした。


供試動物: 一般家庭で飼育されている猫4,121頭より得た血液7,573検体


方法: 2022年にポルトガル、スペイン、ベルギーの動物血液バンクで献血された猫の全検体を回顧的に調査し、ドナー情報や血液媒介性病原体のスクリーニング検査結果を抽出した。


結果: ポルトガルの猫4,034頭のうち212頭、スペインの猫70頭のうち2頭、ベルギーの猫17頭のうち0頭がヘモプラズマ陽性であり、ドナーになり得る猫のヘモプラズマ有病率は5.2%(95%信頼区間: 4.5-5.9%)であった。多変量解析の結果、ヘモプラズマ陽性検体は雄猫(オッズ比=1.9, 95%信頼区間: 1.4-2.6, P<0.0001)、FeLV陽性(オッズ比=2.8, 95%信頼区間: 1.4-5.6, P=0.0023)、冬季に得られた検体(オッズ比=2.5, 95%信頼区間: 1.7-3.6, P<0.0001)であることが多かった。


結論と臨床的意義: 献血時に毎回、ヘモプラズマやその他の血液媒介性病原体のスクリーニング検査を行うことの重要性を本研究は示唆している。厳格なスクリーニング検査を行うことで輸血によりヘモプラズマが伝播する危険性を減らすことでき、レシピエントの健康と福祉がはじめて確かなものになると思われる。

閲覧数:69回0件のコメント

最新記事

すべて表示

献血ドナーと薬、そして生肉食について

ドナーが献血を行う上で健康状態の評価は非常に重要です。検査を行い異常が出れば、客観的に健康状態を評価することができます。しかし、検査に出てこない部分をどのように評価すべきなのかは悩ましいところです。 今回紹介する論文は犬のドナーにおいて投薬や食事内容をどのように評価している...

輸血適応疾患の検討: 猫の尿道閉塞

今回紹介する論文は、猫の尿道閉塞と輸血に関するものです。タイトルだけみた際、個人的な経験則では尿道閉塞と輸血は直接的に結びつかないように思ったのですが、やはり本文をみても尿道閉塞の症例に輸血を実施するケースは2.1%と低頻度でした。...

輸血適応疾患の検討: 犬の免疫介在性血小板減少症

前回に引き続き、今回も輸血について直接研究した論文ではありませんが、輸血適応について考えることをテーマとして犬の免疫介在性血小板減少症(ITP)に関する論文を取り上げたいと思います。この2024年5月にACVIMからITPの診断に関するコンセンサスが発表されましたのでITP...

Comentários


bottom of page