海外ではキットを用いた交差適合試験が行われているところもあるようですが、今回の論文は2種類の異なるキットを用いた交差適合試験(さらにクームス試験のように抗グロブリン抗体を添加して感度を高めた方法です)および輸血による同種免疫感作について調査した研究です。現在、日本国内での交差適合試験は従来通りの試験管内や顕微鏡下での凝集・溶血反応の観察に留まっており、検査者の熟練度に依存していることが大きな課題となっています。この論文で紹介されているようなキットや試薬が日本でも販売されるようになれば、輸血前検査の標準化や効率化につながり、より安全で迅速な輸血治療が行えることと期待されます。このようなキットが販売されることを切に願うと同時に、ガイドライン紹介のページhttps://www.jsvtm.org/viewsを参考にしながら今一度、交差適合試験の手技の確認に努めていきましょう。(担当:中村、瀬川、内田)
2種類の間接抗グロブリン試験による犬の輸血前後の同種免疫感作に関する研究
著者:Goy-Thollot I, Giger U, Boisvineau C, Perrin R, Guidetti M, Chaprier B, Barthélemy A, Pouzot-Nevoret C, Canard B.
掲載誌:J Vet Intern Med. 2017 Sep;31(5):1420-1429. PMID:28804957 背景:犬に輸血を行う際、犬赤血球抗原(DEA)1型の判定や交差適合試験を行うが、その方法は施設により大きく異なる。
目的:赤血球に対する自然発生性の同種抗体(規則性抗体)および輸血によって生じる同種抗体(不規則性抗体)を、犬の抗グロブリン抗体を用いて感度を強化した2種類の交差適合試験(間接抗グロブリン試験)により前向き調査すること。
供試動物:貧血の症例犬80頭、ドナー犬72頭、健常コントロール犬7頭。
方法:全頭でDEA 1型の判定を行い、一部はDEA 4型およびDEA 7型も判定した。免疫クロマトグラフィ試験紙およびゲルカラムによる間接抗グロブリン試験を、輸血後26-129日(中央値39日)に実施した。数頭は輸血後11-22日(中央値16日)の早期に調査を実施した。同種免疫が確認された症例犬の血漿は、34頭のドナー犬およびコントロール犬の赤血球と交差適合試験を実施した。
結果:2種類の交差適合試験法にの判定結果は完全に一致していた。80頭の貧血症例犬に対する全126回の輸血前の交差適合試験は適合していたが、そのうち54頭は死亡または追跡不能であった。追跡可能な26頭の症例犬において、1頭は誤ってDEA 1型の不適合血液を輸血され、輸血後の交差適合試験において不適合となった。25頭のDEA 1型適合症例犬のうちの11頭 (44%) は、他の赤血球抗原に対して不適合となった。DEA 7型に対する規則性抗体は認められなかった。
結論および臨床的重要性:本研究では赤血球抗原に対する規則性抗体は認められなかったが、免疫クロマトグラフィ試験紙およびゲルカラムによる間接抗グロブリン試験は、犬における輸血後の不規則性抗体を高頻度に検出した。輸血前に行われたDEA 1型判定および交差適合試験結果に関係なく、輸血歴のある犬は2回目以降の輸血も全頭で交差適合試験を実施するべきである。
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