top of page

血小板製剤の冷蔵保存

更新日:2023年8月17日

血液には白血球、赤血球、血小板、そして血漿が含まれますが、そのうち獣医療で輸血を目的に活用される成分は主に赤血球と血漿です。一方、医療においては血小板も多くの場面で活用されています。獣医療で輸血用血小板製剤の分野が開拓されづらい理由のひとつに、その保存方法が挙げられます。低温長期保存が可能な赤血球や血漿と異なり、血小板は常温での振盪保存が原則とされていて、長くても約7日しか保存できないからです。

ところで、血小板製剤がなぜ常温保存されているかご存知でしょうか?冷蔵すると血小板の機能がダメになるからと言う方を見かけますが、実際はそうではありません。むしろ、冷蔵血小板は止血能が向上する可能性すら指摘されています。常温保存する本当の理由は、冷蔵した血小板製剤は、輸血後の体内寿命が短縮してしまうことがヒトで証明されているからです。

そこで、今回紹介する文献はイヌの血小板製剤を血漿や特殊な保存液で冷蔵保存したらどうなるのか、Ex vivo(生体外)で解析したものとなります。普段なじみのない分野の方が多いと思いますので、ぜひご覧下さい。

(担当: 瀬川)


4℃で冷蔵保存した犬の血小板濃厚液の保存障害に対する保存液の効果


著者: Sara Ravicini, Jillian M Haines, Julianne K Hwang, K Jane Wardrop.


掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2022 Sep;32(5):592-601. PMID: 35532194


目的: 血小板保存液 (Platelet additive solution: PAS) を用いて血小板製剤を4℃で7日間冷蔵保存し、代謝性マーカー、血小板活性化マーカー、凝集能、細菌コンタミネーションの確認により血小板の保存障害を評価することを目的とした。


研究デザイン: Ex vivoでの前向き対照研究


拠点: ワシントン州立大学附属動物病院の研究施設


供試血液: 血液バンクに献血された犬の血小板濃厚液10単位


実験方法: 血小板濃厚液を血漿100%群、血漿30%+PAS① (Plasma-Lyte A) 70%群、血漿30%+PAS② (Isoplate) 70%群、血漿30%+PAS③ (InterSol) 70%群の4種類のバッグに分割し、それぞれ4℃で静置保存した。そして0、3、5、7日目に血小板数、平均血小板容積、グルコース、乳酸、乳酸脱水素酵素、PO2、PCO2、スワーリング (血小板の入ったバッグを蛍光灯等にかざしながらゆっくりと撹拌したときに渦巻き状のパターンがみられる現象)の程度、凝集塊の形成、光学法による血小板凝集能、フローサイトメトリーによるP-selectinの発現率、細菌培養によるコンタミネーションの確認を行った。


結果: 全ての群において、保存7日目のpHが7.2より上であり、乳酸濃度の平均も6mmol/L未満であったことから、保存障害の程度は最小限に抑えられていることが明らかとなった。代謝によるグルコースの消費はいずれの群でも変わりはなかった。PO2、PCO2に関しては血漿群とPAS群で有意差がみられなかった。保存中の血小板の活性化マーカーであるP-selectinに関して、いずれの群でも過剰な発現はみられなかった。InterSolは血小板凝集能が最も低く(P<0.001)、Isoplateは最も高いレベルで維持されていた(P<0.05)。また、全ての群において0日目より7日目の方が血小板凝集能が改善していた。細菌のコンタミネーションはいずれもみられなかった。


結論: 血小板の冷蔵保存において、PASは保存障害が最小限で細菌増殖もみられず、血漿と同等な性能を示していた。血漿、Plasma-Lyte A、Isoplateで4℃、7日間保存した場合に限り、血小板凝集能が維持されていた。

閲覧数:194回0件のコメント

最新記事

すべて表示

ドナー猫とヘモプラズマ感染症

以前、 イタリアにおけるドナー犬の節足動物媒介性病原体の保有率に関する記事 を掲載しましたが、今回はポルトガル、スペイン、ベルギーの動物血液バンクのドナー猫におけるヘモプラズマ感染症の調査に関する報告です。 その動物血液バンクでは、献血された検体の全てがFIV抗体、FeLV...

献血ドナーと薬、そして生肉食について

ドナーが献血を行う上で健康状態の評価は非常に重要です。検査を行い異常が出れば、客観的に健康状態を評価することができます。しかし、検査に出てこない部分をどのように評価すべきなのかは悩ましいところです。 今回紹介する論文は犬のドナーにおいて投薬や食事内容をどのように評価している...

輸血適応疾患の検討: 猫の尿道閉塞

今回紹介する論文は、猫の尿道閉塞と輸血に関するものです。タイトルだけみた際、個人的な経験則では尿道閉塞と輸血は直接的に結びつかないように思ったのですが、やはり本文をみても尿道閉塞の症例に輸血を実施するケースは2.1%と低頻度でした。...

Comments


bottom of page