これまでにも何度か腹腔内出血と輸血に関する記事をあげてきたように、腹腔内出血は遭遇する頻度の高い病態であり、同時に輸血適応の判断が速やかに求められる病態でもあります。一方、腹腔内出血時の輸血適応判断は各獣医師の経験則に基づくところが大きく、輸血適応の基準に関して科学的に検討されている報告は多くありません。
そこで、ご存じのように急性出血時にPCVが減少するまでには数時間要することがあると言われていることから、今回紹介する論文の筆者たちは総蛋白濃度(TP)と輸血適応の関係性に特に着目しています。すなわち、TPは急性出血時15分以内に減少し始め、45分で最大限の減少がみられるという背景から、TPの減少が腹腔内出血時の輸血適応判断に有意義ではないかという研究です。
注意点として、本研究は回顧的研究であることから、TPが実際に輸血適応判断材料と用いられて輸血が実施されたかどうかは不明であり、また、症例の転帰にどのような影響があったのかは分かりません。あくまで、TPが低い症例は輸血される傾向にあるという事実が得られた形ですが、経験則だけに頼らない指標を提供してくれる点で素晴らしい報告です。ぜひご覧下さい。
(担当: 瀬川)
腹腔内出血と診断された犬90頭に対する輸血と総蛋白濃度に関する回顧的研究
著者: Miranda Buseman, April E Blong, Lingnan Yuan, Jonathan P Mochel, Rebecca A L Walton.
掲載誌: J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2024 Jan-Feb;34(1):76-80. PMID: 37961036
目的: 腹腔内出血と診断された犬の血漿総蛋白濃度(TP)やその他の検査結果と、赤血球輸血適応との関連性を調査することを目的とした。
研究デザイン: 2009年から2019年にかけての回顧的研究
研究拠点: アイオワ州立大学附属動物病院
研究対象: 外傷性あるいは非外傷性の腹腔内出血と診断された犬90頭
方法と結果: 合計47頭が赤血球輸血を実施されており(外傷性腹腔内出血: 26頭中11頭、非外傷性腹腔内出血: 64頭中36頭)、TPが1g/dL低下するとオッズ比にして2.14倍多く輸血が適応されていた(95%信頼区間: 1.44-3.40, P < 0.001)。また、外傷性腹腔内出血よりも非外傷性腹腔内出血の方が輸血されるケースが多く(オッズ比: 2.78, 95%信頼区間: 1.11-7.141, P = 0.03)、その他にPCV低値症例(オッズ比: 1.08, 95%信頼区間: 1.04-1.12, P < 0.001)、重炭酸濃度低値症例(オッズ比: 1.3, 95%信頼区間: 1.09-1.56, P = 0.003)、ベースエクセス低値症例(オッズ比: 1.27, 95%信頼区間: 1.1-1.49, P = 0.003)も輸血される傾向にあった。加えて、乳酸濃度高値症例(オッズ比: 1.35, 95%信頼区間: 1.16-1.63, P < 0.001)、血糖値・アルブミン濃度・乳酸濃度・血小板数・意識レベルから算出されるAPPLE fastスコア高値症例(オッズ比: 1.10, 95%信頼区間: 1.04-1.17, P < 0.001)も輸血適応される場面が多かった。
結論: PCVが低値であることとは関係なくTP低値症例は赤血球輸血を受けている傾向にあり、特にTPが1g/dL低下すると2倍輸血リスクが高まるという結果が得られた。その他にPCV低値、PCV/TPP比低値、重炭酸濃度低値、ベースエクセス低値、乳酸濃度高値、APPLE fastスコア高値が輸血リスク因子として挙げられた。
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